栄町ヤマト薬局 - 2013/07

漢方薬局の日常の出来事




2013年07月31日(Wed)▲ページの先頭へ
 相手をしてくれる人がこの町にいないのか、しばしば薬局にやってくる。その都度コーヒーなどでもてなすのだが、もてなし過ぎかやってくるのが頻繁になった。ただ人目をはばからざるを得ないのか、患者さんがいたら入ってこないし、くつろいでいても患者さんが入ってきたらそそくさと出ていく。全うに暮らしていればそんな卑下したような行動をしなくてすむのだが、法務局に2度も出張すれば世間の目は冷たい。出張の日数も段々長くなる。
 何の話題だったか忘れたが僕が「高級すぎて手が出ない」と言った。「何を言っとるんで」と彼は大笑いした。本当はそんなに高級でもないし手が出ないものでもなかった。いつものように物に無頓着な僕の単なる表現方法だ。その後妻とも彼は話していて、彼が頂き物だと言っておすそ分けしてくれた野菜を見て「これで生き延びられる」と礼を言った妻に「何を言っとるんで」と大笑いした。コンビニ袋に数種類の野菜を入れて持ってきてくれたのだが、妻は昔の人がよく使う冗談で返したのだ。
 実際の彼は「高級すぎて手が出ない物」ばかりで、些細な手伝いをして幾ばくかの謝礼を貰いすぐにそれを酒に化けさすのだが「これで生き延びられる」を米で作った糊のような貧弱さで貼り合わせ、日々に何とか連続性を持たせているのだ。
悠々自適を保障されていた老後を捨てるくらい酒や賭け事が楽しいのか僕は知らない。ごく日常的に使われる照れ言葉に過剰に反応する卑屈さがとれたときに、昔のように心から笑いあえると思う。


2013年07月30日(Tue)▲ページの先頭へ
自尊心
 全く自分の意志に反して帰国を強いられた女性が、一念発起して再来日し日本の大学に入学した。日本にいる間に働き貯めたお金で国に帰り日本語学校で学び、念願かなって日本の大学に入れた。勿論、入学までのお金は蓄えていたのだろうが、その後の授業料や生活費はアルバイトが頼みだ。もし健康を損ねたらその日からお金に困るだろうに、そんなことを考えたら日本になんか来られないのかもしれない。若いから元気、こんな危うい前提で日本にやってきている。
 授業が終わると、少しの休憩の後アルバイトに出かける。帰るのはほとんど深夜の12時頃だ。そんな日々の繰り返しで勉強など出来るわけがない。同じ東南アジアから来ているある国の学生は、すでに数カ国語を操ると言うから、貧しさ故に国で学校に行けなかった彼女たちに勝ち目はない。「お父さん、残念ですね。勉強できない。良いことでないですね」
 多くの留学生が実は勉強目的ではなく、日本で働くために来ていることは、周知の事実だ。時に本当に学びたい人もいて、アルバイトの時間をセーブしている人がいるが、彼女は本当に学びたくて、なおかつお金がないのだ。国で誰の応援も得られなかった彼女は、稼がなくてはならないのだ。確かに良いことではない。折角向学心を持ってやって来ている子が、勉強をする環境にないなんて。国も企業もそんなの十分知っていて、安あがりな労働者として「輸入」しているのだ。人間の姿形をしている学生という名のロボットだ。 日本に来る前は看護師になると言っていたのにすでに諦めたようだ。それも学業不振を理由に。母国なら簡単になれそうな素質を持っているのに、経済に行く手を妨げられ、志を断念した姿に心が痛む。嘗て労働者として自尊心を傷つけられ、今度は学生として自尊心を傷つけられる。この国は弱者に対してだけ強い。


2013年07月29日(Mon)▲ページの先頭へ
 何種類かの薬を出して徴収するお金が、200円台とか300円台では気が抜ける。何か不自然だなとレジを打つ度に思っていたが、患者さん自体もやはり不自然さを感じているみたいだ。特に元々僕の薬局を利用してくれていた人達に同じ感想を持っている人が多い。
 薬局を利用する人は基本的には経済的に恵まれている人が多い。と言うよりごく普通の収入はある人達だ。だから保険の自己負担分に丸を一つつけた程度の買い物は日常的にしている。僕はそんな人ばかり30数年応対してきたから、病気はある程度の投資をして努力して治すものと思っていた。ところが処方せんを持ってやってくる人達は、養生とか運動とかを余りしない。薬で何とかなると思っているのか、そもそも目標が完治ではないのか、気迫が伝わってこない。お金を出して薬を求めている人は、症状を抑えるのではなく治ってしまいたいと思っているから結構努力する。養生なども向こうから聞いてくる。ところが処方せんを持ってくる人達は、健康知識に興味も薄いしウォーキングすらしない。 今日もある老人に言われた。今月から後期高齢者になったらしくて、負担が1割に減った。今日処方箋で目薬を4本もらい払った金額が220円で、その時に「年寄りになったらえらい安いなあ。もうちょっととって。申し訳ないじゃないの。年寄りからもっと病院代や薬代を取るように国に言いたいわ」と言った。冗談ではなく真顔だった。
 政治家は票が欲しくて不合理な制度に固執している。限りなく負担をゼロに近づけるほど人は感謝することを忘れる。権利だけを覚えた若い親たちの、礼も言えない不愉快さは日々目にするが、同じような老人の品のなさも目に余る。お金などにはとても換算できない品性がこの国から消えていく。


2013年07月28日(Sun)▲ページの先頭へ
あまちゃん
 今年一番耳に残った言葉だ。なるほどなと感心した。決して洗練された言い回しではないが、緻密に用意されたことは容易に想像がつく。
夏ばあさんが、春子が再び出ていくときにかけた言葉だ。寂しいだろうと娘に言われ夏ばあさんは「大丈夫だ、一人暮らしには慣れている。出たり入ったりするから寂しいんだ」と答えた。何となく真実を突いていると思う。同じような経験は誰もがしているのではないか。家族でも会社でも学校でも、その他色々な組織や地域でも。人を見送るときの寂しさは、一人で暮らす寂しさの比ではない。と言うより、現代では一人で暮らすことが別に寂しさの象徴ではない。むしろ気楽とか自由の象徴の方にシフトしている。
 ただひたすら働いてきただけだから、寂しいなんて感情を抱く状況はまるっきりなかった。ほとんどの人間関係は職業を介在していた。ところがこの数年、かの国の若い女性達と一緒に行動することが増えて、彼女たちの志などを知って、少しばかり役に立ちたいと思うようになってから、寂しさが身近になった。期限を切られての滞在だから、必ず3年で帰っていく。経済的な理由によって勉強の機会に恵まれなかった子が多くて、帰国してから大学に行くと目を輝かせるが、日本にいる間にも多くのものを見て感じて欲しいと思っている。労働に見合った報酬かどうか部外者には分からないが、牛窓で働いた3年間日本人に「とても大切にして貰った」と言ってもらえるように智恵と財布を絞っている。
この秋に又3人が帰っていく。そして又新しい3人が来る。「出たり入ったりするから寂しいんだ」


2013年07月27日(Sat)▲ページの先頭へ
無邪気
 福島第1原発の敷地内から海へ放射性物質を含む地下水が流出している問題で、東京電力は27日、汚染水の漏えい源とみられる敷地海側のトレンチ(地下の配管用トンネル)にたまっている水から、1リットル当たり23億5000万ベクレルの高濃度で放射性セシウムを検出したと発表した。(毎日新聞)
この記事を読む前に、確かその南の県で海水浴場が事故以来初めて再開された(る?)という報道を見た。西の方の人間にとっては地名を正確に地図の上に落とすことが出来ないから、グーグルで調べてみた。何と驚くなかれ、その地名の場所は福島県に接している?場所だった。この二つの報道を見てあの辺りの人は何を思いどんな行動をとるのだろう。どうせ今に始まったことではないから、今までのように政治や経済を優先するのだろうか。海水浴は子供か若者しかしないから、危険度はかなりのものだと思うが、それでも海水浴場を再び閉鎖するというニュースはまだ伝わって来ない。
何もなかったことにして罪を免れるだけではなく、これからも又貪欲に富をむさぼる奴らに好き勝手にされて、物言わぬ被害者のまま質を落とした生活に甘んじるというのだろうか。いつの間にか身体中の体調不良で暮らさなければならない事に対して覚悟は出来ているのだろうか。時間とともに抱えるものが次第に重くなることに対しての覚悟は出来ているのだろうか。
 何も教えられないまま無邪気に水と戯れる子供や青年の姿を想像すると悔しい。


2013年07月26日(Fri)▲ページの先頭へ
 今日僕は姥捨て山をした。妻がとてもうまく母を施設まで連れて行ってくれた。道中も施設に着いてからも、楽しそうな母の様子を聞いてホットした。どのくらい分かっていたのか、どのくらい分かっていなかったのか知らないが、恐らく進行している出来事の1割も理解していなかったのではないか。だから楽しそうな様子の報告ばかりが続いた。最悪のケースも覚悟して送りだしたのだが、そんな修羅場も見ずにすんだ。まさか母が全てを見通して知らぬ振りをしているのではないだろうなと、一瞬考えたりもしたが、最近の人格破壊を見ているとその懸念はすぐに吹き飛んだ。
夕食の時も昨日まで2年間毎日陣取っていた席に人はいない。最初の夜、職員や利用者と上手く行っているのだろうかとふと考えたりするけれど、圧倒的に家の中が楽になる。すべての事象で時間の短縮が図られ、能率も効率も上がり、そして何よりもマイナスの言葉が飛び交わない。悪意に満ちた言葉が消えた。
 福祉という名の山に、経済という名の山に今日姥捨てをした。罪悪感と後ろめたさをごまかして、さも何もなかったように再び暮らし始めた。さも何もなかったかのように痴呆を演じた母がいたのではないと頭の隅にまだ消せない想いを持ちながら。


2013年07月25日(Thu)▲ページの先頭へ
臑に疵
 「診察が止まってしまう」なるほど、それは彼らにとっては大変なことなんだと思った。
 偶然息子が帰ってきたから、過敏性腸症候群の漢方薬を取りに来ていた親子の相談に乗るように頼んでみた。普段は疲れて帰ってくるから仕事の話は一切しないように心がけているが、その子の落ち込みようが気の毒だったから息子に頼んでみたら快く引き受けてくれた。
 二人の話をなるべく聞かないようにしていたから何を話したのか分からない。正に消化器を専門にしている息子が、どの様な対処の仕方をするのか興味はあったが、そこは僕の興味を引っ込めた。その子が治ること、唯一それしか目的はないのだから。
 親子が帰ってから、「お父さんの場合は1時間くらい話をする。時には2時間くらい話す事もある」と言うと、それに驚いて冒頭の言葉を返した。確かに多い日には80人くらい診るという彼らにとって、一人の患者に費やせる時間は限られている。まして命に関係ない不調には特に時間をとられる訳にはいかないのだろう。彼らが不親切ではなく、そもそも機能しなくなるのだ。
 そうしてみると僕の薬局など打って付けなのかもしれない。暇なのにスタッフは多く、漢方薬という武器も持っている。臑に疵は持っていないが、青春に疵は各々が持っている。特に僕など青春にバンドエイドが一箱くらいでは足らないくらいだ。「調剤が止まってしまう」と格好いいことを言ってみたいが、元々止まっている。止まっていないのは生あくびとため息くらいなものだ。


2013年07月24日(Wed)▲ページの先頭へ
助言
 やはり抵抗はある。一般論から言えば正しいのだろうが、まだ大人になりきっていない子を、患者扱いにはしたくない。抗ウツ薬や安定剤なるものが本当に必要なのかと思ってしまう。紹介した本人もまさかそんな結果を望んではいないだろうが、自分が引き受けるよりは専門家と称する人に委ねた方が、気分も楽だし、責任も免れる。
原因を解決しないで、心のトラブルが治るのは難しい。痛み止めで抑えている神経痛みたいなものだ。若くて柔軟な肉体の持ち主ならそれで治るが、柔軟な肉体に恵まれていない人にとっては治るのとはほど遠い。心も同じだ。柔軟な精神の持ち主なら、回復する力は十分備えているが、心が元々おれやすい人に環境を変えずして安定剤だけで治るはずがない。
 助言が助言になっていない。責任を回避しただけだ。症状を1ヶ月、いや数ヶ月押し戻したりする。漢方薬のハーブ効果で折角心が強くなり始めていたのが、元の繊細すぎるレベルに戻っていく。まるで冗談のように、正面に立たず、側面から改善していけば意外と人の心は回復する。品も捨て、肩書きも捨て、プライドも捨て、ヤマト薬局でお金も捨てれば脱力して笑顔も戻る。


2013年07月23日(Tue)▲ページの先頭へ
さりげなく
 別にそれを目的に作ったのではないが、ある不快症状を治すための漢方薬を2週間飲んでもらったら、病院の睡眠薬と安定剤がいらなくなったと言って喜んでくれた。
そもそも問診(僕はそんな大袈裟なことはしないから雑談と言った方がいいかもしれない)をしている時から、睡眠薬や安定剤が必要な人には思えなかった。だから何故そんなものを飲んでいるのか不思議だった。ただ本人が喜んでいるなら僕がそれに介入する必要もないし、そもそも介入しない。本人次第なのだ。辛いことがあれば気持ちが落ち、食欲が無くなり、眠りにくくなるのは当たり前で、それを持って病気と捉える方が不自然のような気がする。だから僕はそれをウツウツと表現する。そう表現すれば睡眠薬や安定剤はいらない。ハーブ効果のある漢方薬とレベルダウンした話題の会話と笑いがあれば十分だ。そうすれば登場して頂いた人のように、睡眠薬も安定剤も止められる。恐らく漢方薬を作った日は1時間余り話をしたが、その中の9割9分は健康以外の話題だった。結構趣味が似ている、いや羨ましいほど趣味に近い職業だから、僕の好奇心が目覚めて色々面白い話を教えて貰った。どちらが薬局の主か分からないくらいだ。
僕は漢方薬を飲んで欲しいからと言ってお医者さんの処方を否定することは滅多にない。だから僕の漢方薬を飲んでいる人のほとんどはお医者さんの薬を飲んでいる。巷見ていると圧倒的にお医者ざんにこの国の人は救われているのだから、薬剤師ごときが現代医療を否定したりは出来ない。仮にウツウツをうつ病として薬物療法の限りを尽くすような医師がいても否定はしない。要は患者さんが救われているかどうかの一点なのだ。救われているならどんな介入も許されない。ただ救われていないなら、僕はさりげなく知識の限りを尽くす。


2013年07月22日(Mon)▲ページの先頭へ
消費者
 「大腸癌に新たな選択肢」と銘打った資料が届いたから読んでみたが、何故か腑に落ちない。専門的な資料を読み解くことは出来ないが、分かりやすく書いてくれているからおおむね理解は出来ていると思う。
 進行性、あるいは再発大腸癌に対してある薬が抗腫瘍効果を示すというものなのだが、その効果たるや、全生存期間が6.4ヶ月だったというのだ。比較のために、その薬を使用しなかった人達は5.0ヶ月だったと言うから僅か1.4ヶ月しか違わない。そして驚くべき事にその薬の値段が1日分2万円するらしいから、製薬会社は笑いが止まらないだろう。副作用は例の癌治療に付き物の手足症候群(手足や指先、足底などの四肢末端部に、しびれ、皮膚知覚過敏、ヒリヒリ感・チクチク感、発赤、色素沈着、腫脹等があらわれる。 重篤になると、湿性落屑、潰瘍、水疱、強い痛みがあらわれ、歩行障害、ものがつかめないなど日常生活を遂行できなくなることもある)がおよそ50%の人に、疲労も50%、高血圧30%、下痢30%、皮膚病25%とその後に続く。僅か40日くらいを、それも副作用と戦いながら生き延びるために余分に100万円ほど使うわけだ。恐らく副作用を防ぐと称して色々な薬剤がついてくるから実際にはそれだけではすまないだろう。癌はやはり金のなる木なのだ。誰もが枯れるように亡くなる手伝いを医療がすれば、もっと死は救いになり、受け入れやすいものになるだろうに。ああ、でもそれでは経済にとってはマイナスか。最後の最後まで消費者でいてくれなければ困るのか。


2013年07月21日(Sun)▲ページの先頭へ
目撃
 妻がいなくて良かった。その光景を見たらやっておれないだろうから。
恐らくもう少し日が経てば、娘であることも分からなくなるかもしれないと思い、姉に母親に会いに来るように誘った。どのくらい会っていないのか忘れたが、勿論電話などでは話しているから分からないことはないだろうが、どういう態度を示し、どういう言葉を発するのか興味があった。
 リビングに一人でいた母に姉が声をかけながら近づくと、じっと見つめていたがやがて分かったのだろう、一気ににこやかな顔になった。笑顔など忘れてしまっているのかと思っていたが、満面の笑みがまだ出来るのだと驚いた。否定的な、攻撃的な言葉しか発せなくなっていたから、自ずと品のない表情になっていたが、その瞬間姉曰く「可愛らしいお年寄り」になっていた。姉の服装についても少々派手気味というような言葉をまず最初に発した。その後は二人だけの時間を過ごして貰うために席を外したが、奇蹟の笑顔がその後何時間も続いたかどうかは分からない。ただその瞬間は明らかに僕や妻に対する表情とは違った。娘が一番なんて巷言われることが良く理解できた。
つかず離れず、結構うまい介護を続けている妻に、あの笑顔を向けられる事はない。目撃したのが僕で良かった。


2013年07月20日(Sat)▲ページの先頭へ
愛情
 一昨日の昼から喉が痛くなったらしいが、昨日の朝息子が薬をもらうよといって調剤室に入り、抗生物質などを探していたから、風邪をひいたのだと分かった。何でも病院で流行っていて何人かのスタッフが喉痛と咳を訴えているらしい。
 その日は仕事が昼からだったので午前中はゆっくり出来たらしい。すると妻が風邪薬と栄養剤を持ってきてこれを飲んだら早く治るよといって息子に飲むように促した。僕はそれをのまないのではと思っていたが、あにはからんや何のためらいもなく簡単に飲んでしまった。その光景を見ていて僕もある漢方薬のシロップを渡して、これをしばしば口に含めば喉の痛さは軽減されるよと説明しておいた。
 結局丸1日で治ってしまったようだが、何となく滑稽な光景だった。やはり家に帰れば所詮息子なのだ。母親が勧める薬を何のためらいもなく飲むのだから。もっとも子供の時からほとんどの病気を我が家で治してきたのだから、彼にとっては当たり前の話だ。幼少期からの習慣だから。
 ほとんどの病気は防衛反応だ。命を守るための反応が病気とみなされる。だから母親の愛情で治らないはずがない。


2013年07月19日(Fri)▲ページの先頭へ
ブレーキ
 僕は素人だから、敢えて考えることもなかったが、ただ漠然と「その後を見せてやればいいのに」といつも思っていた。そうしたら自分がやったことの罪深さが理解できるのではと思っていた。
 そんな事件が西の県であった。その街には、知り合いの薬局もあるし、患者さんも数人いる。だから聞けばすぐ分かる街の名前だ。良くある事件だから特別印象に残ったというわけでもないが、今朝のニュースで自首した理由が、何日か経って見に行ったら遺体の損傷が激しくて、そこで初めて罪の意識を感じたというものだった。発見されて死因も特定できない、それどころか被害者の特定にDNA検査が必要なくらいだと言うから、想像を絶する姿で発見されたのだと思う。加害者にその様な姿を見せているのか知らないが、見せれば罪の深さにさすがに気がつくのではと思う。現代人は綺麗なものしか見ていないから、殺めたあげくの姿など想像できないのだろう。テレビ番組のように綺麗な顔や体に赤いペンキで血糊を付けている程度にしか想像できないのだろう。だから簡単に人を殺めたり出来るのだ。
 頭に来ても、憎くても、DNA検査でしか分からないくらいなことをしてはいけないと、幾人かの罪人のブレーキにはなるのではと思っている。


2013年07月18日(Thu)▲ページの先頭へ
紙一重
 佐竹徳画伯と言えば、知る人ぞ知るオリーブの画家で、牛窓に住みついて100歳で亡くなった人だ。瀬戸内市民美術館で画伯から寄付された80点が常時展示されている。なんてほとんど作品を見たことがない、又歩いて3分のところにある美術館にも行ったことがない僕が言うのだから不確かだと思ってもらっていい。ただ佐竹画伯は日本的にも有名で、僕らが小学生の頃から牛窓の絵を描いていたらしい。実際に時々見かけている。何十年も住んでいたのだから当たり前ではあるが、僕が牛窓に帰ってから見かける彼はすでに一老人だったから何らオーラは感じられなかった。ただ噂で聞く絵の値段はさすがにオーラの泉状態だった。
 今日、僕の友人が訪ねてきたときにある時効になった話をしてくれた。彼とは牛窓に帰ってきて以来40年近く結構親しくしているのだが、初めて聞く話だった。何故今まで黙っていたのか知らないが、あまりに面白かったので披露する。
 彼がある日オリーブ園に行ったとき、オリーブを見ながら初老の老人が絵を描いていた。彼がのぞき込むと結構上手だったらしい。絵なんか僕以上に分かりそうにない彼だが、そんな彼が見ても上手に思えたらしい。そこで彼はその老人に牛窓弁で「おっつぁん、絵が上手じゃねえか。展覧会にでも出してみりゃあええが」(ご主人、絵がお上手ですね、展覧会に出してみられたら如何ですか)と言ったらしい。それに対する画伯の反応は聞かなかったが、そこは天下の画伯。亡くなってからお嬢さんから聞いた話だと「あの時、見知らぬ青年が牛窓弁丸出しで絵を褒めてくれた」と喜んでいたらしい。
 無知と勇気は紙一重だ。


2013年07月17日(Wed)▲ページの先頭へ
精算
 カロリーの摂りすぎの人がかかりやすい皮膚病の相談に来た人に「甘いものばかり食べているのではないの?」と尋ねそうになったが、顔を見た瞬間その質問を取りやめた。「こればっかりいっているのではないの?」と酒を飲む仕草を真似て尋ねてみたら「酒は2年くらい飲んでない。もう止めた。今は目の前にビールがあっても飲もうとは思わん」と断酒を誇らしげに言うが、すでに僕の300年分くらい飲んでいるのだから、今更飲んでいないと言っても自慢でも何でもない。
 僕の薬局ではみんなが口が軽くなる。腹に溜めていた想いを吐き出して心を軽くして帰るのだろうが、これが薬以上に効くことを、僕がそもそも認めているのだから、本人達も然りだろう。この男性も、肝癌の手術をしてその後検査だけしていたらしいが、今日ガン細胞が残っていることが分かり、再手術すると医師に説明されたばかりだという。僕より身長はあるみたいだが、かなり痩せていた。癌の手術がかなり負担だったのだろうと水を向けると、痩せたのは糖尿病があるからだと説明してくれた。
なるほどこれで一連の流れが分かった。嘗ての彼は酒の臭いをさせながら、ちょっと猫背気味で、御法度の裏街道を歩くところまでは行かないが、もう少しであちら側に渡りかねない人物だった。何が彼を守ってくれたのか、結局は堅気のまま過ごした。臑にいくつの傷を持っているのか知らないが、ハラハラしながら堅気で通したと言うところだろう。酒にタバコに、後は知らないが、体によいことなどしそうにない人だから、「若いときにムチャクチャしたのを悔いているのではないの?」と尋ねてみたら「全うに暮らしとりゃあ良かった」と柄にもない返事が返ってきた。そうか、やはり死に病をする頃になると、あんな人でも後悔するんだと意外だった。
 何を隠そう彼は僕と同級生なのだが、やつれ具合を直視しづらかった。今の彼ならいくら悪ぶっても相手は動じないだろう。どこかで精算して消えていく。あちらもこちらも途中の人も。


2013年07月16日(Tue)▲ページの先頭へ
酪農
 僕もよく働いてきたとは思うが、僕以上がいた。
 何の話からその様になったのか忘れたが、その人は印象深いことを言った。「もう何年も岡山には行っていない」と。この辺りの人ならこのことばの持つ意味が分かると思う。大都会の人なら、隣の区に行ったことがないと言っているのと同じレベルの内容だ。こう言い直せば如何にこの人が町から出ていないかが分かる。
 酪農業の人は生き物相手だから休むことは出来ない。乳搾りを1日でも止めれば乳腺炎になってしまうと嘗て聞いたことがある。「酪農は365日稼がせてくれる」と皮肉混じりに言った酪農家もいたが、動物が好きな人には休みがないなど大したことではないのだと思う。それが証拠に、その方も別に不満で言ったのではない。表情にそんなことは微塵も感じさせなかった。寧ろそのことが自身の評価に繋がっているかのように自信に溢れていた。
自身への評価が低い僕も、やっとここに来て日曜、祝日を休むことにした。何かを背負うという気概も野心もなかったが、喜んで貰えれば結構仕事は楽しいと言う単純な気持ちで働きづめだった。役に立てるという満足感は巷伝えられる余暇の光景よりはるかに満足いくものだった。
 人生を人との比較で量るというあの忌々しい時代は少しだけ遠ざかっているような気がする。


2013年07月15日(Mon)▲ページの先頭へ
 あるわあるわ、出てくるわ出てくるわ、90歳過ぎの老婆が一人で住んでいた家とは思えないくらい物が出てくる。
決して贅沢などとは無縁の母だから、物など無いと思っていた。物が散らかっているのが耐えられない人だから、買い集めないと思っていた。確かに高価な物を買った形跡はないが、使えるもの、捨てられないものをそれこそ大切にしまっていた。一見片づけられた部屋だから目視で片づけるのは簡単だと思っていた。ところが4トントラック1回では片づかないくらい、4人でも片づかないくらい物が出てきた。
 恐らくそのほとんどの物が使われていないのだ。無くても何十年も回ってきた物ばかりだ。誰かがいつか勇気を持って決断しない限り、代々無用の物を受け継いだりする。物にこだわりがない僕だから、物どころか想い出までもこだわらない僕だから、そうした役回りは打って付けなのかもしれない。だから見る見るうちに物をトラックに積み込んだ。悲しいかなあまりに物が多かったから、見る見るうちに積み込んだ割には、見る見るうちに物は減らなかった。
 時折雷が鳴る蒸し暑い時間帯に、慣れない肉体労働をしたから、熱中症もどきにかかりそうだった。甥にスポーツ飲料を買ってきて貰い、クーラーをかけて車内にいたら回復したが、ちょっと気を抜くと誰もが毎晩発表される熱中症の人数にカウントされてしまうことになる。さすがにかなり体力を消耗して夕方からはあくびが止まらない。次の世代に迷惑をかけまいと思えば、物は持たない事だ。主がいなくなれば一山なんぼの世界でしかないのだから。そもそも今日を懸命に生きている人間にとって、物も想い出もいらない。メモ用紙一枚で今日は作れる。


2013年07月14日(Sun)▲ページの先頭へ
解放
 「何を食べられたかは分かるんでしょう?」「数分したら分からないでしょう」「それでもご飯を食べたかどうかは分かるんでしょう?」「数分したら覚えていないでしょう」プロとしたらその辺りでもう想像がつくのかもしれない。ひょっとしたらその質問は判定の十分条件に近いのかもしれない。今考えれば数分はかなり控えめな数字で、1分か2分と答えても良かったのかもしれない。
 施設の人に能力の8割くらいは失っていますと答えたが、我ながらいい加減な答えだ。彼女の質問の時の表情で、食べたことを忘れるって事がかなりの指標になることを感じた。8割どころか9割、いやほとんどと言っていいくらいの能力を失っているのだろうか。姥捨てに通じる罪悪感と日々戦っているが、何とか自分を正当化できる理由を探している。そう言った意味で施設の方の質問は僕には救いだった。
 まるで体育館のように広いホールに母のような人が20数人いた。多くの人が無表情で、それこそ母が20数人いるようなものだ。恐らくこのまま施設でお世話になり、やがて亡くなっていく人達だ。勿論今が幸せのようには見えない。虚空を見上げている人も沢山いるし、逆にうつむいたまま身動き一つしない人もいる。無いのは会話と笑顔だ。人がもっとも人らしいものが圧倒的に消えている。ここで又、後ろめたさから少し解放される。


2013年07月13日(Sat)▲ページの先頭へ
富士山
 別に世界遺産に登録されたから見たいのではない。めったに見れないから見たいだけだ。 余程運が悪いのか、そもそもそんなものか分からないが、新幹線から富士山が見えたことは数回しかない。二軍に落とされそうなプロ野球選手の打率並だ。滅多に見えないから余計興味が湧き、いつか見るためだけに近くまで行ってみたいと思うようになった。
 そんなことを漢方薬の注文をくれた神奈川県の方に話していたら、今日メールで富士山の写真を送ってくれた。ご自分が四月に飛行機に乗ったときに写したものらしいが、まだ雪が残っていて、それはそれは綺麗だった。あのアングルからの富士山はあまり目にしないから、結構新鮮で、僕もいつか仕事を辞めたら飛行機で上空を飛んでみたいと思った。
 その方が写真に添えてくれている短い文章の中で「お電話でお話しした富士山送ります」と言うのがあった。本当は富士山の写真を送りますと書くのが普通かもしれないが、彼女は敢えてその表現を使わなかったのだと思う。富士山の写真と富士山ではまるきり感情のレベルが違う。「富士山を送る」にはユーモアを始め多くの感情が移入されているが。それに比べて写真では如何にも無機質だ。
 ちょっとした表現が多くの印象をもたらしてくれる。たったそれだけのことが一日を楽しくしてくれた。何度も富士山の画面を再生しては、時に漢方相談の方に見せたりした。雲で見えなかったからと諦めて帰る距離ではないので、必死の思いで訪れないといけないが、飛行機ならほぼ見えるでしょうと彼女が助言してくれた。これまで見上げるばかりの人生を送ってきたので、見下ろすようなことは苦手だが、あの雄大な富士山ならばそれも又許してくれるかもしれない。


2013年07月12日(Fri)▲ページの先頭へ
天職
 これは明らかにお母さんの忍耐勝ち。良くお嬢さんを救ってあげたと思う。
起立性調節障害で病院から出される薬は主に昇圧剤や安定剤だ。医師がだらしなさに目をやりすぎると、社会不安障害か何かと勘違いして抗ウツ薬がでたりする。そんな治療がいやで、いやもなにもそもそも効いた気もしないから、漢方薬を求めて来る親子が年に数組いる。その中で印象深く興味を持って見守っている親子がいるが、今日はバスを乗り継いで○○市内を巡回するという計画を友達と立てているらしい。朝お母さんが教えてくれた。以前ならあり得ないことだ。身体がだるくて起きあがっているのも苦痛で、外出もままならなかった子が、友達と人混みへ出かけていくなんて。
このお母さんはとにかく忍耐強くお嬢さんの復活を待った。病院の薬は僕の所に来るようになってすぐ止めた。そしてお嬢さんになにも強要しなかった。お嬢さんが出来る範囲のことで、日常を埋めた。助けることは何でもして、足を引っ張ることは一切しなかった。引け目を感じるかもしれない幼い心をとにかく大切にしてあげたと思う。だからお嬢さんは心まで折れなかったのだと思う。
偶然かもしれないが同じ町から同じような子がやってきた。2週間前からお世話を始めたが、2週間で苦痛が半分に減ったと言った。それはそうだろう、学校にお母さんの車で送ってもらっていたのが、朝起きたときの体が随分楽だから自分で自転車を漕いで通学し、終業まで学校におれるというのだ。そのくらいだから階段を上るのも苦ではなくなったし、
ストレスが随分となくなったらしい。
 漢方問屋の専務さんが僕のホームページのお世話をしてくれているが、昨日「先生何か得意分野がないですか?ホームページに書き加えますから」と言ってくれた。考えても得意なものなど無いので「無い」と答えていた。そこでふと思いついたのが今日の二人の「起立性調節障害」だが、なにぶんお世話した人数が少ない。改善率はほぼ100%近いと思うのだが、どうも貧弱で見栄えがしない。100人くらいお世話したら書いてくれても良いが、それまで僕が仕事をしているかどうか分からない。なにぶん早くこの仕事を辞めないと天職である歌手の期間が短くなりすぎる。


2013年07月11日(Thu)▲ページの先頭へ
体験
「京都府立医科大による血圧降下剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験をめぐる問題で、投薬を受けた患者の血圧などのデータについて、医師が入力したデータと、実際の解析に使われたデータに食い違いがあることが同大学の調査で11日、分かった。データを人為的に操作した可能性があるという。販売元のノバルティスファーマの社員が統計解析の専門家として関わっていた」
「 肥満症の改善に効く市販用の「やせ薬」開発をめぐり、大阪市の病院で臨床試験(治験)に参加した被験者の身長が改ざんされた疑いがあることが30日、分かった。 薬を開発した製薬大手の小林製薬が明らかにした。 要件に合った肥満体形の被験者がそろったよう、偽装された可能性がある」
片や医療用の有名な会社、片やOTC医薬品の有名な会社。二つの会社が偶然同じ時期にデータを改ざんして商品を実力以上に見せようとした。科学も医薬品の品位もそこにはない。あるのは経済ばかり。いやそんな綺麗な言葉はもったいない。あるのは飽くなき銭への欲求ばかり。そんなところに健康や命を預けているのだから心許ない。2社固有の特徴ではないと思う。多かれ少なかれ企業なんて同じようなものだ。利潤をあげることが、そしてそれを増やすことが至上命題だから、ありとあらゆる手を尽くすって事だろう。たとえそれが御法度の裏街道を行くものだとしても。
何度も言うが、何度言っても届かない。もうこれ以上薬はいらないのだから、後は難病の薬開発に全勢力を注ぐべきだ。ありふれた病気など薬は整備され尽くされている。よってたかって山中先生一人の人格に及ばないのでは情けない。この国の人は未だ多くの分野で「銭」に優る正義を体験できないでいる。


2013年07月10日(Wed)▲ページの先頭へ
漂白
 口を揃えて「勉強したい」と言うかの国の若い女性の中で、すでにしてきた女性が一人だけいる。通訳という仕事を得ているから大学にはいっていたのだろう。そこで彼女に確かめてみた。「○○さん、良く大学に行けたね?お家がお金持ちだったの?」と単刀直入に尋ねてみた。するとたどたどしい日本語でゆっくりと説明してくれた。しかし、以下の会話にはいる前に一瞬涙を我慢した。僕は見逃さなかったが。
「オカアサンハ、オカネナイカラ、ダイガクヘイッテハイケナイトイッタ。デモワタシ、ベンキョウシタカッタ、ダカラダイガクニイッタ」
「お金はどうしたの?」
「ギンコウカラカリタ」
「いくら借りたの?」
「15マンエン」
「15万円、良かったね、それならすぐに返すことが出来るわ」
「ヨカッタジャナイ タイヘン 4ネンデカエス」
「それはそうだね、向こうのお金だと凄い金額だもんね。でも日本で働けばすぐに返すことが出来るよ」
 僕は嬉しかった。家庭の事情で勉強できなかった子達が、3年間日本で働けば、向こうで学校に行けるのだ。実際に多くの子達が国に帰り大学に行った。又日本の大学に入った子もいる。勿論経済的な援助など僕には出来ないが、もう一度日本に行きたいと思ってもらえる動機の小さな一つにはなれるような気がする。「オトウサン ノウギョウデス キカイアリマセンカラ カラダイツモツカレテイル」高速道から一面広がる緑に埋め尽くされた田圃を見ながら彼女が言った。ものが溢れ、捨てることでしか世の中が循環しない異様な国で、彼女たちと過ごす一時は汚れた僕の心を漂白してくれる至福の時間だ。


2013年07月09日(Tue)▲ページの先頭へ
 「餅は餅屋、水は水道屋」、こんな諺があったかどうか分からないが、やはり水についての相談は水道屋さんに限る。
処方せんを持ってきた男性は水道屋さんに勤めている。もうずっと同じ内容の処方箋だから薬についての話はしない。雑談をして帰っていくのだが、ふとしたことから我が家のシャワーの出が悪いことを話した。悪いと言っても家を建てたときからずっとだから(シャワーを使う習慣のない僕は恐らく家を建てた時、試みに使っただけ以来30年使ったことはないが)そんなものと諦めていた。と言うより受け入れていたと言った方が正しいかもしれない。すると男性は駐車場のメーターの所に行き、おもむろに鉄板をはずすとメーターを覗いた。「ここは太い管が来ているから水圧が強いはずよ。いや待てよ、バブルをエライしぼって水を倹約しとるじゃないの」と言った。我が家の素人衆が勝手にそんなものに触れるわけがない。恐らく工事をしてくれた方が善意でそこそこの強さにしてくれていたのだろう。男性は断りもなく勝手にバブルを緩めて、「これで今夜から気持ちよく出るよ」と職人面に一瞬戻った。勿論こちらも断りもなくジェネリックに変えるくらいだからお互い様だ。こんな信頼関係で物事を進めていける関係はとても楽だ。田舎の大きな長所かもしれない。
「餅は餅屋、薬は大和」こんな諺があったかどうか分からないが。


2013年07月08日(Mon)▲ページの先頭へ
同義語
 もう70歳を過ぎているから、顔つきほどは厳つくない。笑えばまだ可愛い顔になるのだけれど、大工だからなかなか職人気質は抜けず、しかめっ面を得意とする。そんな男性が病院の処方箋を持ってやって来た。そんな彼も娘に応対して貰って、緊張しているのかぎこちない。
娘婿が応対していた女性、もう80歳は十分越えていると思うのだが、を知っているみたいで、照れ隠しでもないだろうが、自分が薬について説明されているのに話しかけている。僕は漢方相談をしていたので話している内容は聞こえなかったが、女性が先に出ていった男性を見送った後に言った。「迷子にならないようにちゃんと帰られよだって」と。なんて親切で優しい心の持ち主だと、読んでくださっている方は思うかも知れないが、実はその女性は僕の薬局の2軒隣なのだ。
 これこそが実は牛窓の冗談の真骨頂なのだ。牛窓には昔から百姓も漁師もいるが、百姓は真面目でもくもくと働く傾向があり、漁師は冗談を連ねて、それも逆説ばかりだから難解だ。よその人は理解できずに戸惑うことが多い。板底の下は地獄だから、緊張の連続をごまかす処世術だと思う。
 「気をつけてお帰り!」が「迷子になるな!」と同意語だと誰が信じることが出来ようか。頭ではなく身体で覚えた言葉もあるものだ。


2013年07月07日(Sun)▲ページの先頭へ
地引き網
 最早我が家の年中行事になったツバメを守る会も、やっと今年のお勤めを終えた。一昨日無事雛たちが巣立った。
去年成功したカラス撃退法がまんまと今年は見破られて、1回目の雛は孵らなかった。無惨に巣を破壊され、散乱した卵の殻を見て、娘がある手段を思いついた。今までのすだれ作戦が歯が立たないのだから、それに優る防御が必要だと思ったのだろう。そこで買ってきたのが、長さ10メートル、幅2メートルくらいの、布だ。布と言っても細かい編み目様のもので、透けて見えるし、軽い。それで軒下の全てを覆うというものだ。そうすれば、ほんの少々の隙間を残してやれば、ツバメは素通りできるけれどカラスはとても入れない。第一羽ばたきが出来ない。これならさすがのカラスも歯が立たないだろうと思ったら案の定、以来カラスは近寄りもしなかった。
 ただ、この布を毎晩軒下に吊す作業は大変だった。西から東にいくつもの窓の外を手渡しで、拡げるのだから落ちそうだった。2階と言っても店舗の2階だから結構高くて、高所恐怖症の僕には負担だった。恐らく知らない人が見たら陸で地引き網をしているように見えただろう。そんな地引き網を2週間以上は繰り返したと思う。
 それでも弱者を強者から守るのは気持ちがいい。達成感に浸っている。事人間様の世界では、強者が弱者を思いのままに操っている。人間と言うツバメは地引き網で守ってもらえることもなく、むしろ進んで地獄への道を歩んでいる。だが、道連れには絶対されたくない。


2013年07月06日(Sat)▲ページの先頭へ
満点
 もし許されるなら外国人のように抱きしめて、その孝行ぶりの全てに満点をつけられることを示したかったが、ここは東洋の国だし、相手が立派な大人だから許されない。突然の涙の知らせに戸惑ったが、恐らく他の人では出来ないだろう自然な接し方で愛情の全てを出し尽くしていたことを知っているから、拙い慰めの言葉は必要ないと思った。
ありそうな言葉だが、実際に聞いたのは昨日が初めてのような気がする。ファザコンという言葉が実際にあるのかどうか分からないが、きっと彼女はお父さんを尊敬していたのだと思う。薬局に付き添ってやって来たときの言葉遣いや振る舞いに、それが如実に現れていた。丁寧な立ち居振る舞いは父親の職業の影響を受けているのか、それとも母親の気性を受け継いでいるのか分からないが、今時珍しく美しい言葉遣いも心得ている人だ。
 急逝した父親を言葉を発する毎に思い出し、涙が瞬時に瞳を覆う。数年前から介護していたから、元気なときの父親の想い出はなく、闘病している姿が父親の全てだと言っていた。痴呆が進んだ母親の最近の姿が僕の中での母の全て、と共通する認識で世代を越えた一致に何故か救われたような気がした。
 あの若さで父親を失うのはどんなに辛いだろうと想像するが、50歳を過ぎるまで父親がいた僕には実は想像しきれないのだ。まして「大好きだった」お父さんを亡くした気持ちは尚分からない。ただこういった状況でかける的確な言葉を持っていない僕には、涙と交互に笑顔が溢れてくれることが救いだった。「あなたは満点だった」たったそれだけを言うために多くの言葉を犠牲にしたことを後悔している。


2013年07月05日(Fri)▲ページの先頭へ
雑談
 本人も気がついているとは知らなかったが、この女性はストレスが溜まると片方のまぶたが閉じる。薬局に入ってきたときからそれで心の平安の程度が量れる。今日はしっかり閉じていたからストレスは溜まっている。ほとんど閉じているから、「それでも見えるの?」と尋ねてみたら、見えるらしいから不思議だ。ほとんど瞼が閉じられているのにどうして見えるのだろう。
心ウキウキの漢方薬をもう随分飲んで頂いているが、この人には慌てて薬を作らない。目一杯雑談をする。いつも優しく見守ってくれるお嬢さんと一緒に来るから、3人でお喋りをする。何の偶然か分からないが、この二人が来る日は必ずと言っていいほど我が家には美味しい頂き物がある。今日も1時間くらい前に頂いた最中があったから、ハーブティーと一緒にもてなした。くだらない話をしていくうちに、その方の表情が和らぎ、ごく普通のおばさんに戻っていく。
 一頻り話すと心が落ち着くのか色々なことに興味を示す。薬局の入り口には娘が集めている花や観葉植物がおかれている。その中の観葉植物の葉に一匹のバッタが止まっているのを見つけた。身動き一つしないから余程注意深く見ないと分からないと思うのだが、良く見つけたと思う。牛窓の人間だからバッタくらい珍しくないと思うのだが、母娘で喜んでいた。僕もあまり賑やかなので見るとなるほどまるで造形物のように身動きしないバッタが葉っぱに止まっていた。まるで美術作品のように見えた。もうその頃には女性の表情は随分と明るくて笑顔も沢山出る。
 漢方薬を持って帰るときにも又同じ観葉植物の前で立ち止まり、又バッタの話題かと思ったら、「この木はなんて言う気なの?」と今度はバッタが止まっている木に興味を示した。そこで植物にはめっぽう詳しい僕が教えてあげた。「ナリユキ(成り行き)」と。母娘にとても受けた。これで又2週間、心穏やかに過ごして頂ける。


2013年07月04日(Thu)▲ページの先頭へ
基準値
 「90歳を過ぎてこの検査値は異常だろう!」嬉しそうに親の検査値を見せてくれたのに、僕の反応がこれでは嬉しさ半減だろうか。ただ90歳を過ぎてこの正常振りは異常だ。
 かなり検査項目があったから医院の簡単なものではないようだ。何か病気を持っているのかもしれない。もっともその年齢で病気の一つや二つ持っていないのも運が良すぎる。見せてくれた表の中は確かに正常からはみ出しているものはほとんどなかった。一つか二つあったが、それもほんのかすかに正常値をオーバーしているだけだ。僕なんかの方がはるかに正常値をはずれているのが多いし、はずれようも大胆だ。
 例えばコレステロール。これが低かったら、体内のホルモンなどが作られない。それこそ不健康だ。例えば血圧、これが低ければ体の隅々まで血液が運ばれないだろう。動脈硬化を起こし、筋肉ポンプが衰えたなら、圧をかけて隅々まで血液を送ろうとするのは当たり前の話だ。それを健康な20歳代の人並みに下げると言うことの方が不自然だ。例えば頭。大脳が萎縮しているのに、嘗てと同じ頭の働きを求めるのは酷だ。理性も知性も同じように萎縮するのが当たり前で、それを病気と捉えるから無駄なカネが製薬会社に吸い取られる。
 この世は悪意に満ちたトリックが横行している。数字で示されれば納得してしまいがちだが、五感を優先する生き方もこれから必要ではないかと思う。薬で人工的に二十歳の健康な人と同じ体内環境を整えても、所詮不自然でしかない。その不自然を求めて一喜一憂している僕らこそ最強の不自然だ。


2013年07月03日(Wed)▲ページの先頭へ
 「台所で料理をしているときについ涙が溢れてくるんです」だから頭がおかしくなったんだろうかと心配になってきてくれたのだが、おかしくなったどころか、正常も正常、誰もが鏡にしたいような人物だ。
 その人の苦労と言うべきものは、僕の100倍?1000倍?とにかく比べものにならないくらいだ。本当に真剣に誠意を持って尽くしている人だから、体力が落ち、気力が萎えたときふと涙を流すことなど当たり前の事だ。むしろ、ふと流すどころか号泣すると打ち明けられる方が自然なほどだ。いつも僕が応対するときは笑顔が溢れているから、その笑顔の源を教えて欲しいくらいだ。まず普通の人なら同じことは出来ないだろうし、彼女が抱えているものの大きさを思えば笑顔を絶やさないなんて至難の業だ。
 泣くことはかなりのストレス解消効果があるという研究成果を目にしたことがある。それが本当なら、彼女は自然に心の休息をとっていることになる。世に言う娯楽のほとんどを犠牲にして尽くしている彼女が唯一逃げ込めるところが涙なら、救いの涙なのだ。
あの強くて優しい心が折れないように、体力を体調を保証するのが僕の役目だと思うから、喜んで煎じ薬を作らせてもらったが、本当は僕が彼女の爪の垢を煎じて飲んだ方がいいのかもしれない。


2013年07月02日(Tue)▲ページの先頭へ
立ち話
 今朝自分としてはとても珍しい経験をした。職業柄毎日多くの人と会話しているが、そのほとんどは目的を持ってしている。ところが今朝5時頃から延々1時間の立ち話は何の目的もなかった。
隣の駐車場は時々持ち主の会社が草刈りをするが、その後は山際に刈った草をそのままにしていることが多い。何ヶ月もそのままだから、恐らく虫の住処になっているだろうし、誰かが意図的に火でもつけたら山火事になる。だから僕は毎朝、御法度の裏街道ではあるけれど我が家の駐車場に少しずつ放置された枯れ草を運び焼いている。今朝も草が燃える香りを楽しんでいたら、ある男性が近寄ってきて挨拶をした。
僕も早いが向こうも早い。少しだけ向こうが若いと思う。処方箋を毎月持ってくるから勿論顔は知っているし、関西訛りの面白い人物だから、薬局でも一言二言会話はするが、当たり障りのない内容だ。だけどその時間から彼は酒を飲んでいたから口が軽くて今朝は色々なことを教えてくれた。もっとも所詮立ち話だから、深刻な内容はない。それ以前に深刻さは彼には似合わない。
もう何十年も住んでいるのに、牛窓で知っているのは僕ともう1人の男性だけだと言っていた。もっとも、朝早く仕事に出かけ、仕事帰りにはパチンコ屋で時間を潰し、家に着いてからは酒浸りなのだから人と知り合えるチャンスは少ない。だけど彼はそれを残念になんか思っていない。寧ろそうした孤高を楽しんでいるきらいがある。実際は奥さんも子供達も出ていったから、孤高ならぬ孤独を楽しんでいるのかもしれない。ただ、さすがに老後は気になるらしくて、彼なりの老後の考えを教えてくれた。
 元々大阪にいた人だが、何かの事情で父親と共に牛窓にやってきた人だ。「俺は都会の人間やから蜘蛛やムカデが苦手やん。コンクリートが似合うねん」と言うが、見るからに牛窓の人間だ。頭の先から足の先まであか抜けた所など微塵もない。根っからの牛窓の遺伝子だ。自分が老いて住めなくなったら、家を誰かに貸して、都会からやってくるインテリ達の集まれるところを作ったらいいねんと、なかなか立派な事を言うが、それを聞いていた僕は親切な助言をしてあげた。「○○さん、牛窓にインテリの集まりを作るのは良いアイデアだけど、それだったら自分は入れんよ」と。
 こんなたわいもない会話は学生時代以来ではないかと思うくらい内容のない会話をした。終始ゴルフの素振りの練習のような素振りをしながら話すから「○○さん、ゴルフするの?」と尋ねると「いや、したことがない」と言う。「エアゴルフか!」


1 2    全31件


漢方薬を初め天然素材の薬を用いて、さまざまな慢性疾患の回復をお手伝いします。
お店のホームページ
お問い合わせフォーム

☆★汗・臭いの気になる方はコチラ★☆

☆★ FAXで漢方相談 ★☆
※漢方のご相談は「漢方相談FAX用紙」を印刷し、ファックスもしくは郵送でヤマト薬局までお送りください。

新着エントリ
旦那 (8/18)
落馬 (8/17)
裏表 (8/16)
遺伝子 (8/15)
共鳴 (8/14)
習性 (8/12)
返事 (8/11)
民度 (8/10)

新着トラックバック/コメント
写真 (16:40)
年下 (12:13)
後姿 (09:20)
ベース (03:28)
9880円 (8/10)
坂道 (8/7)

■店舗名■
有限会社 栄町ヤマト薬局

■住所■
〒701-4302
岡山県瀬戸内市 牛窓町牛窓4808-3

■連絡先■
[TEL] 0869-34-5466
[FAX] 0869-34-6017
[E-mail] ご相談はこちら
[URL]

カレンダ
2013年7月
 
     

アーカイブ
2006年 (266)
4月 (25)
5月 (29)
6月 (31)
7月 (30)
8月 (31)
9月 (29)
10月 (31)
11月 (30)
12月 (30)
2007年 (354)
1月 (31)
2月 (28)
3月 (30)
4月 (31)
5月 (30)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (31)
9月 (30)
10月 (22)
11月 (29)
12月 (31)
2008年 (366)
1月 (31)
2月 (29)
3月 (31)
4月 (30)
5月 (31)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (31)
9月 (30)
10月 (31)
11月 (30)
12月 (31)
2009年 (364)
1月 (31)
2月 (28)
3月 (31)
4月 (30)
5月 (31)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (31)
9月 (30)
10月 (31)
11月 (29)
12月 (31)
2010年 (364)
1月 (31)
2月 (28)
3月 (31)
4月 (30)
5月 (31)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (31)
9月 (30)
10月 (30)
11月 (30)
12月 (31)
2011年 (364)
1月 (31)
2月 (28)
3月 (31)
4月 (30)
5月 (31)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (31)
9月 (30)
10月 (31)
11月 (29)
12月 (31)
2012年 (365)
1月 (31)
2月 (29)
3月 (30)
4月 (30)
5月 (31)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (31)
9月 (30)
10月 (31)
11月 (30)
12月 (31)
2013年 (366)
1月 (31)
2月 (28)
3月 (32)
4月 (30)
5月 (31)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (31)
9月 (30)
10月 (31)
11月 (30)
12月 (31)
2014年 (365)
1月 (31)
2月 (28)
3月 (31)
4月 (30)
5月 (31)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (31)
9月 (30)
10月 (31)
11月 (30)
12月 (31)
2015年 (364)
1月 (31)
2月 (27)
3月 (31)
4月 (30)
5月 (31)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (31)
9月 (30)
10月 (31)
11月 (30)
12月 (31)
2016年 (365)
1月 (31)
2月 (28)
3月 (31)
4月 (30)
5月 (31)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (31)
9月 (30)
10月 (31)
11月 (30)
12月 (31)
2017年 (231)
1月 (31)
2月 (28)
3月 (31)
4月 (30)
5月 (31)
6月 (30)
7月 (31)
8月 (19)

アクセスカウンタ
今日:3,293
昨日:5,249
累計:6,838,466